はなきうスペース

作品感想や舞台探訪、二次創作関連など

『アイの歌声を聴かせて』を観て聴いたら幸せになれる

ひとことで表すと衝撃。

運が良いのか悪いのか各種メディアやSNSでの評判ネタバレを目にすることなく予備知識ほぼなし状態から本編鑑賞に臨んだこともあり、その感動たるやすさまじかったよ。こんな素晴らしい映画だとは全く予想していなかった。アニメーションの枠を超えた名作と言っていい。

ストーリー、構成、設定、映像、演技、音楽そして歌。これらが完璧といっていいほどに融合した作品に出逢ってしまった驚き。それを劇場で感じることができた幸運。もうただただ感謝。この作品を世に送り出してくれた皆様には心から感謝。そして劇場で観ようと思い立った自分にもスタンディングオベーションを笑。

 

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以下ネタバレ含みます。いつものようにとっ散らかってる感想のようなもの。

 

『アイの歌声を聴かせて』はミュージカルアニメとされるかもしれないが、そうは思わない。この作品において歌はストーリーに必須なのであって、歌が前提のミュージカルとはちょっと違うんだよね。もちろん演出的にはミュージカルの形をしている場面もあるのだけれど、それはAIシオンにとっての当たり前の行動である「サトミを幸せにする」を形にしたもの。歌でなければならない。サトミの幸せ≒劇中劇『ムーンプリンセス』で皆を幸せにした行い、それが歌によるものだから。これを知らされた時の心の震えたるや。思い出すだけで涙が浮かびそう。

これが人間ではなくAIというところがまた良いよね……。目的遂行のための純粋さからの行動。ただただサトミの幸せのために。インフラ含めてハッキングしまくりで (実はハッキングではなく他AIとの協働のようで、それはそれで)行動には強烈な危うさがあるのだけれど、そういう現実的な懸念など吹き飛ばす純粋な善性。AIやロボットの肯定はこのようなエンターテインメントとして正しい姿だと私も思う。説教や現実的問題は現実の場で喧々諤々でやってください。

シオンはサトミを幸せにするという至上の指令に沿って動くだけではなかった。サトミや友達がシオンとその歌に突き動かされたように、シオンもまた彼らから影響を受けていた。サトミを幸せにするためにまず周りを幸せにする――そう判断しての行動だとしても、それだけでゴッちゃんアヤ問題やサンダーとの練習であの歌は出てこないよね。シオン自身も友達を作る幸せを知りたかったのでは。そんなことも思ってしまう。

後半の声色は人間に寄せていたように聞こえる。それだけ人に近付いていたということではないだろうか。最初に幸せの意味をサトミに問われ「わかんない!」と答えたシオンは、最後に幸せだと言った。サトミを幸せにするためにやったことが皆を結び幸せにし、シオンもまた幸せを知った。なんて素晴らしいことでしょう! 

 

あとはなんといっても歌だよね。もう本当に最高!

まずはここまでやるかというくらいディズニーアニメ風味を前面に出したことによる説得力。曲調だけでムーンプリンセスってそういう話なんだなって何となく把握できてしまう。すごい。

曲だけでも盛り上がる素敵なメロディーに乗せられる歌詞。シオンの心には歌があり詩があるんだよね。だから詩音なんだ……とか。

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初回鑑賞時に歌詞をしっかりとらえることはできなかったけれど、歌詞付きPVや2回目鑑賞時に聴いたときは「なんだよそれ…泣」だった。観た人は皆わかってることなので細かくは言わないけど最初に歌った『ユー・ニード・ア・フレンド』の「幸せかな? 教えてほしいな」から後半の『You've Got Friends』での「幸せかな? 教えてあげるね」。タイトルから完全にアンサーになっているが、物語に寄り添う歌詞が素晴らしい。メロディーに乗せたシオンのメッセージ。ずっと見守っていたシオンの想い。想いと言うべきなのか分からないが、私は想いと言いたい。この作品は2回目以降にもっと響くのは、そういうことなんだ。

シオンを演じる土屋太鳳さんも全く違和感ないどころか抜群だった。普通の高校生として過ごすAIという設定での声を見事に演じていた。人間そのままでもだめだろうしロボットイメージのピコピコ風も論外だろう。その匙加減が絶妙。それがあってあの歌。凄いよね。シオンが歌ってるって素直に聴こえるのだから。土屋太鳳さんを配役したことで100点の作品が120点になったのではないでしょうか。もちろんサントラも買った。

サントラといえば劇伴の雰囲気もとても良くて。シオンの秘密が露になる場面での『[RO:M]』、最高潮での『シオンの解放~脱出』は聴いていると心が揺れ動く。ラスト曲『シオンの世界(再奏)』でシオンはじめとするAI未来への希望。素晴らしい。

 

シオンだけでなく「友達」になっていくクラスメイトも素敵だった。サトミとトウマの幼少時から始まったシオンが、時を経て再び絡まりクラスメイトとも繋がっていくさまも素晴らしく、私好みの青春群像劇もしっかりしていて大変良かった。それぞれの抱えるものをシオンを通じて乗り越える時にも歌が自然に使われていて、シオンの歌でなければならなくて、どれにも説得力があり。

中盤の最高潮、月夜に集まり皆でサトミに歌うシーン。壮麗な舞台となった発電施設で友達が友達を想い歌うことの圧倒的な美しさ。もう誰が見ても幸せ。やはりこれはミュージカルを超越した新しい表現だ。

音楽に限らず設定や状況を一瞬にして掴めるようにしている描写をしっかり入れていた点も時間の限られた劇場作品として非常に親切な作りだった。

冒頭のAIにカーテンを開けさせたり家事を手伝わせる場面など、「ああ、そういう近未来なんだ」と一瞬で把握できたし、母スケジュール覗きと会話からサトミが学校でのシオンドタバタを収拾させようとする流れなど。ストーリー上での設定の積み重ねが秀逸で唸った。劇中劇ムーンプリンセスはじめ、出てくる場面や会話のあれもこれもクライマックスに畳みかけるように回収させるさまもこの作品の醍醐味。本当にあれもこれもだから圧倒される。

 

個人的にとても好きなのは星間ビルでの逃亡中にビルのAIロボット達が助けてくれる場面。お掃除ロボットの表情がたまらん。それと外のソーラーパネルに浮かんだ「詩音うたおう!」(うたおう詩音、だったかも)「歌おうシオン」のメッセージ。シオンにやらされたのではなく、たくさんのAI達からの応援だと思いたい。きっとそうだよね。AIとして危険なことでもあるのだけれど、この作品においては完全肯定したい。あの場面も感動だった。

強いて気になるところをあげるなら、敵役の支社長や主任が嫉妬心丸出しなのがちょっと残念だったかも。上に言ったことと矛盾するがAI暴走への危機感からの阻止行動として描いていたら作品の深みが増したような気も。でも今作にはそこまでの複雑説教要素はやっぱりいらないか。シオンがんばれ! サトミ幸せになって! トウマいいぞ! ゴっちゃんカッコイイ! アヤいい子やん! サンダー……強く生きろ笑。これでいい。

 

全ての要素が絡み合い最高の形で結ばれる完璧な物語。幸せな気持ちでいっぱいになるエンターテインメント。自信をもって名作と断言します。

『アイの歌声を聴かせて』は幸せになれる魔法だった。

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サトミ

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シオン